お台場の歌。

otokomaetomato2004-10-16

彼はこう言っていた。
「高校のとき、僕は夢を諦めました。僕には左手のひじから先がないし、才能もないし、夢に破れて泣くのがオチだと、一人で勝手に納得して、諦めていたんです。そう思うのはラクなことでした。とても。早くそのことに気がついてよかったとさえ思っていました。でも、ある日ぼーっと夜食を食べつつ思ったんです。宇宙の大きな流れから見ると、僕はただのかけらなんだなって。夢に破れて泣こうが、もっと言えば、僕がいなくても宇宙の流れそのものは何も変わらないんだろうなって。そう思ったら、ちょっとくやしかったけど、スーと胸のつかえが取れたようにラクになれました。歌いたいなら歌えばいい!本当に、とても簡単なことでした。そうか。僕は今、ここで、こうして生きている。もうそれだけで、失敗なんてありえないと思ったんです。僕が生きているということが、僕にとっては何よりすばらしい。それ以上の何があるでしょうか。ある日。ぼーっと夜食を食べたあの日以来。僕は僕のためにどう生きるか、考えるのはその事ばかりです。」

東京に来て知り合った友人の結婚披露パーティーで、お台場へ行ってきた。受付開始が、19時半だったので、それまでの時間、ジョイポリスのあたりをブラブラしていた。すると、どこからが女性の歌声が、海沿いの「東京タワー」と「自由の女神」と「レインボーブリッジ」が望めるウッドデッキから聞こえてきた。それは、女性でなく男性。きれいな歌声。その左横では、丸坊主のピアニスト。右横では、ボイスパーカッション。声であんな音が出せるとは。さらに、そのきれいな歌声のヴォーカルには、左腕の肘から下がなかった。立ち止まってから、ほんの1分くらいの間に色んな感情が溢れてきた。この人は、どんな人生を送ってきたのだろう?
 自分は、小学生一年生の時、遊んでいて顔にケガをし、唇とおでこを手術した。その後、中学生になって二度目の手術。最初のころは、学校にも行きたくなかった。変な唇の姿で友達に会いたくなかった。笑われたくなかった。見られたくなかった。今日出会った彼に比べれば、ほんの些細なことかもしれない。でも、心の傷には、大小は関係ない。ある人にとっては些細なことでも、本人にとっては大事なこと。そんな事って世の中いっぱいあると思う。
 自分の考えや環境を変えるきっかけは、どこにでもあるんだと思う。それに自分が気が付くかどうかだと。尊敬する人物に出会ったとか、すばらしい本を読んだとかでなくても。彼のように、夜食を食べてた夜。そんな普通の瞬間にもきっかけというのはある。大げさかもしれないけれど、その歌に出会って自分の原点を思い出したようなそんな感じがした。
アルケミスト
http://www.voicerecords.net/alchemist/